『逃亡者』は、郊外の一軒家に立てこもった犯罪者を描くサスペンスです。『逃亡者』が公開された1991年は、日本でサスペンス映画が相次いで公開された年でした。まず1月に『逃亡者』と『パシフィック・ハイツ』(1990年)が公開されました。『パシフィック・ハイツ』は、サンフランシスコの豪邸を購入したカップルが、その一部屋を間貸ししたところ、借りた男が犯罪者だったというサスペンス。『ワーキング・ガール』(1988年)で注目されたメラニー・グリフィス、『フルメタル・ジャケット』(1987年)のマシュー・モディーン、『バットマン』(1989年)のマイケル・キートンというアンサンブル・キャストが豪華でした。4月には『愛がこわれるとき』(1991年)が公開。『プリティ・ウーマン』(1990年)で人気女優の仲間入りをしたジュリア・ロバーツ演じる女性が結婚した相手が異常者だったというサスペンス。6月には『推定無罪』(1990年)が登場。こちらは、スコット・トゥローのベストセラー小説を原作にした法廷サスペンスで、ハリソン・フォード主演。これらの作品の公開で、サスペンスが映画界の一つの潮流となったころ、同じ6月に公開されたのが『羊たちの沈黙』(1991年)です。ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンスが出演したサイコ・サスペンスの傑作で、この年のアカデミー賞で作品賞を含む5部門を受賞しました。『羊たちの沈黙』は、サイコ・サスペンス映画のブームを巻き起こし、『コピーキャット』(1995年)、『ザ・ウォッチャー』(2000年)などの亜流が作られるとともに新たな傑作『セブン』(1995年)が登場する源流となりました。また、『羊たちの沈黙』に始まる『ハンニバル・レクター』シリーズは、『ハンニバル・ライジング』(2007年)まで3つの続編が作られるという息の長いシリーズになりました。一方、『推定無罪』が切り拓いた法廷サスペンスは、『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)、『ペリカン文書』(1993年)などのジョン・グリシャム原作小説の相次ぐ映画化に引き継がれました。ジョン・グリシャム原作小説の映画化作品も1990年代を中心に『ニューオーリンズ・トライアル』(2003年)まで続き、一時代を築くことになります。
というわけで、『羊たちの沈黙』が登場した1991年は、サスペンス映画がハリウッドのメインストリームに躍り出た年として記憶されるべきでしょう。アメリカで1990年に公開された『逃亡者』は、そんなサスペンス元年ともいうべき1991年の到来を予言するかのように登場した作品です。
私は、『逃亡者』を大学生のころ京都の京都ロキシーで鑑賞しました。緊迫感に溢れながら二転三転するドラマをハラハラしながら楽しんだことを覚えています。