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首都消失(その5&その6)

首都消失(1987年日本)

5. 注目点①~映像化しにくい題材を映画化!~

 『首都消失』は、よくもこれだけ映像化しにくい題材を映画化したなあ、と感心させられます。東京が謎の「雲」におおわれるという設定自体が映像化しにくいです。中野昭慶特撮監督は、遠景はマットアートで、電子偵察機EP-3Eがからむシーンはドライアイスで、といったふうに様々な特撮テクニックを使ってこの「雲」を映像化しています。
 小松左京の原作小説は、もし東京がなくなったら、という設定のもと、複数の立場が違う人々がこの異常な状況にどう対処するかを描いた一種のシミュレーション小説ですが、映画は、原作を大きく変え、「雲」の謎に挑む人々を中心にしています。結果、民衆のパニックを描きながらも、登場人物たちのドラマチックなシーンが増え、感情移入しやすく見ごたえのある映画になっています。
 『首都消失』は、『日本沈没』に続く、SFパニックとして紹介されました。しかし、『日本沈没』が、シミュレーション小説のダイレクトな映像化だったのに対し、『首都消失』は、登場人物の織りなすドラマをじっくり見せる仕上がりになっています。

6. 注目点②~「雲」への接近でドラマが変わる!~

 謎の「雲」に翻弄される登場人物たちの動きが変わるのが、電子偵察機EP-3Eで「雲」に接近する調査飛行のシーンです。ここは、中野昭慶特撮監督による特撮シーンの迫力に圧倒されます。EP-3Eから投下されるセンサーが、雲の合い間をすり抜けるように落下していき、そこにセンサーが提供する映像を見つめる渡瀬恒彦の「渋谷か?新宿!新宿!」といったセリフが重なるかっこいいシーンです。さらに稲妻がEP-3Eを直撃し、閃光が機体をはしるというハラハラするシーンが続きます。
 この調査飛行のシーンを分岐点にドラマは加速していきます。アメリカとの調査結果の駆け引き、大田原教授によるデータ解析を経て、ラストの「雲」突破に挑むシーンになだれこんでいくのです。
 登場人物が「謎」に能動的にかかわることで変化し、結果、「謎」に挑んでいくようになるというのは、小松左京原作映画の重要な要素で見どころの一つです。
 『日本沈没』では、深海探査艇「わだつみ」による深海調査が描かれ、人々が日本沈没の危機にどう対処するかに物語の舵がきられます。『さよならジュピター』では、中盤に深部探査艇「JADE-Ⅲ」による木星探査とジュピターゴーストの発見が描かれ、そこから物語はブラックホールの危機に挑む人々を描く方向に変わります。
 沈没していく日本(『日本沈没』)、木星に横たわるように存在するジュピターゴースト(『さよならジュピター』)、そして、「雲」(『首都消失』)。小松左京原作映画の「謎」は、ゆっくりと、そして不気味に進行する異常な「状況」そのものであり、その「状況」に人々が能動的にかかわって、はじめて打開の道が開けるのです。

『首都消失』(その7&その8&その9)注目点③~アナログ特撮の発展、VFX前夜!~・注目点④~関西が劇中、重要に!~・注目点⑤~生頼範義の迫力のポスター!~