映画のラストには、意外な場面が登場します。地獄と天国の描写です。
ラインハート博士は、崩壊するシグナス号の中で亡くなります。ガード・ロボットのマクシミリアンにも見捨てられるという悲惨な最期です。そして、ラインハート博士の死後の姿が描かれます。宙を漂うラインハート博士は、マクシミリアンと一体化し、燃える炎につつまれた丘の上に立ちます。まさに地獄のイメージです。狂気にかられ、殺人を犯してきた一人の人間が、ロボットと同化し、完全に人間性を失う姿を比喩的に描いているのでしょう。
一方、ホランド船長らを乗せた小型脱出船は、ブラックホールに突入した後、光輝く回廊を通ります。こちらは、まさに天国のイメージです。そして、やがて地球にたどり着くところを見せて、映画は終わります。
最後に天国と地獄という、哲学的・宗教的なイメージを入れたあたり、哲学的な『2001年宇宙の旅』(1968年)を意識しているかのようです。
当時最先端のCG、人間の狂気が生み出すドラマ、斬新なデザインの宇宙船、魅力的なロボットたち、哲学的・宗教的なイメージ...『ブラックホール』にかけた当時のスタッフの意気込みがうかがい知れます。SF映画乱立の中、『ブラックホール』は、新機軸を打ち出そうと、熱意をもって生み出された作品といえるでしょう。