また、『天と地と』を観たとき、上杉謙信と武田信玄の関係は、バットマンとジョーカーの関係に似ていると感じました。ちょうど『天と地と』公開の半年前(1989年12月)にティム・バートン監督の『バットマン」(1989年)が公開され、大ヒット。私もこのヒーロー誕生の物語をスクリーンで楽しみました。マイケル・キートン演じるブルース・ウェインは、幼いころジャック・ニコルソン演じるギャングのジャック・ネイピアに両親を殺されます。この出来事がブルース・ウェインをバットマンに変貌させるきっかけになりました。ジャック・ネイピアは、バットマンに化学薬品のタンクに落とされ、ジョーカーへ変貌します。言わばバットマンとジョーカーは同じコインの裏表の関係。ですから、ラストでバットマンは、ジョーカーに「私がお前を作った。だが、先にお前が私を作ったのだ」と言うのです。
『天と地と』の上杉謙信と武田信玄も同じコインの裏表です。そもそも兄を討伐して越後の国主となった謙信と、父を追放して甲斐の国主になった信玄は、境遇が似ています。奥信濃への進出を目指す信玄は、鉄砲商人から謙信の噂を聞き、来るべき対決へ向けて力をつけます。謙信は、諸国流浪の旅で信玄と出会い、家臣を殺されたことから、力強い武将へと生まれ変わります。謙信の存在が信玄を強くさせ、信玄との出会いが謙信を強くさせたのです。このあたり、バットマンとジョーカーの関係にそっくりです。
この謙信と信玄のコインの裏表のような関係も、世界中の人が『天と地と』を観たとき、理解しやすい要素になっているのでしょう。