• 映画の思い出を語っていきます!

天と地と(7)

天と地と(1990年日本)

7. 注目点③!~合戦を体感する映画!~

 『天と地と』最大の見どころは映画の中盤からラストまで展開される合戦シーンです。日本には16世紀の川中島に似たロケ地が見つからないため、川中島に似ていて俯瞰の撮影ができるカナダのカルガリーで、現地のエキストラを動員して撮影されています。「赤と黒のエクスタシー」という宣伝文句通り、武田信玄の甲斐勢は赤、上杉謙信の越後勢は黒の甲冑で身を固め、その二軍が激突する合戦シーンは、圧倒的な美しさと迫力があります。途中、謙信と宇佐美定行の一騎打ちが描かれますが。宇佐美勢は緑色で統一。謙信は宇佐美定行との戦いでは、黒の甲冑で登場。ラストの川中島の戦いでは、赤と黒の軍勢が激突する中、銀色の南蛮(西洋)甲冑を着て、馬に乗り疾駆します。その姿は、英雄にふさわしいカッコよさです。
 角川春樹監督は、ハリウッドの史劇映画を意識していて、『十戒』(1956年)、『ベン・ハー』(1959年)や『クレオパトラ』(1963年)などを思わせる風格ある作品に仕上がっています。
 ちょうどハリウッド製の史劇映画は、『クレオパトラ』(1963年)を最後に作られなくなって30年ほどが経っていました。1980年代のハリウッド史劇映画は、『ベン・ハー』の栄光をもう一度という意気込みで作られた『キング・ダビデ/愛と闘いの伝説』(1985年)があったぐらい。しかし、『キング・ダビデ/愛と闘いの伝説』は、スケール感に乏しい仕上がりでした。ですから、史劇映画不作のころ、かつ日本映画の<鎧もの>時代劇もあまり作られていない時期に製作費に50億円をかけ、のべ2万頭の馬、のべ6万5千人のエキストラを動員して作られた『天と地と』は、史劇スペクタクル好きの観客の飢餓感を払拭する作品でした。
 とにかく、『天と地と』の合戦シーンは美しく、壮大なマスゲームを思わせる秩序があります。また、残酷なシーンもありません。私は当時の時代劇映画、たとえば『将軍家光の乱心 激突』(1989年)や『座頭市』(1989年)なども観ていて、それらには、残酷なシーンが少しインサートされていたので、『天と地と』の美しい合戦シーンを観たとき、リアリティに関して少しもの足りなさを感じました。角川春樹監督は、残虐な血の出るようなシーンは一切なし、戦争を美しく、ゲームのように見せようとしたのは、女性の観客にアピールする工夫と語っています(「ニュータイプ100%コレクション・エクストラ 天と地と」角川書店、1990年)。ですから、『天と地と』は、あくまで合戦の美しさと迫力を楽しむ映画であり、合戦を体感する映画だといえます。ほぼ全編合戦場面といえる作りは、全編戦場シーンで作り上げた『ブラックホーク・ダウン』(2001年)を思わせます。『天と地と』は、合戦の迫力に没入する楽しさにあふれていて、私は、今も合戦映画を観たくなると『天と地と』を観ます。
 また、信玄の魚鱗の陣、鶴翼の陣、謙信の車懸りの陣という陣形を見せたり、時間の経過と場所の移動をテロップと地図でわかりやすく見せるところも『天と地と』の目新しさでした。上杉軍、武田軍双方の槍部隊が長槍で激しく戦うさまも目新しく、その周囲を騎馬隊が駆け巡るといった描写は、立体的な面白さがあります。
 最初の川中島の場面で、馬上の謙信をとらえたカメラがそのまま謙信とともに移動し、謙信が高台から陣を展開する武田軍を見下ろす場面が登場しますが、エキストラで再現した武田軍の迫力に圧倒されます。当時、私は、劇場でこの場面だけで入場料の価値はあると思いました。

『天と地と』(8)注目点④!~すべてエキストラで再現した最後の合戦映画!~