『奇蹟/ミラクル』の原作は、フランク・キャプラの『一日だけの淑女』(1933年)とそのセルフリメイクの『ポケット一杯の幸福』(1961年)です。『一日だけの淑女』(1933年)と『ポケット一杯の幸福』は、困っている老婦人を助けるためにギャングのボスが一芝居を打つという内容のコメディで、フランク・キャプラらしい温かい作品に仕上がっています。それを香港を舞台に翻案した『奇蹟/ミラクル』は、フランク・キャプラの温かさにジャッキー・チェンらしいアクションが加わり、とてもテンポよく痛快で、最後まで飽きさせません。
『九龍の眼/クーロンズ・アイ』(1988年)の後、ジャッキー・チェンの次回作は、<黒社会もの>と予告されていました。ちょうど、ジョン・ウーの『男たちの挽歌』(1986年)が大ヒットし、香港映画界は<黒社会もの>、つまりギャング映画がブームになっているときです。日本で<香港ノワール>と名づけられた<黒社会もの>は、シリアスなハードアクションが多く、ジャッキー・チェンもこのジャンルに挑むことで作風もダークなものに変化するのかと思いました。しかし、同じ<黒社会もの>でもフランク・キャプラをもってくるところがいかにもジャッキー・チェンらしく、<黒社会もの>に対するジャッキー・チェンの予想外のアプローチに驚きました。また、1987年に『アンタッチャブル』が公開され、ハリウッドもギャング映画がブームのとき。時流にうまく乗るジャッキー・チェンにも感心しました。『アンタッチャブル』が「パラマウント映画創立75周年記念作品」だったのに対して、『奇蹟/ミラクル』は、「ゴールデン・ハーベスト社設立20周年記念作品」と銘打たれています。これも『奇蹟/ミラクル』に風格を与える要素になっています。