『フリージャック』が描く近未来世界は、独特のおもしろさがあります。環境破壊が進み、公害が拡大するうす汚れた未来で、悪性のウィルスが蔓延しています。そして、わずかな富裕層と多数の貧困層に分断された格差社会で、街は治安が悪く、暴動が日常化しています。環境破壊、公害、ウィルス、格差社会、これらは、現代の私たちの社会を映しとっているようで、怖さがあります。環境の悪化、ウィルスの蔓延に人間は弱く、それだからこそ、富裕層が新鮮な肉体を求めるという、<フリージャック>の設定が活きています。
一方で、テクノロジーは発達していて、精神転送機、ビデオ電話、曲線を活かしたユニークなデザインの未来車両などのガジェットが登場します。アレックスとバセンダックの戦いの中で繰り広げられる、それら未来車両を使ったカーアクションも見どころです。また、ラストの精神転送機に誘われたアレックスとジュリーが入り込むマッキャンドレスの精神世界を描写するサイケデリックなイメージも、映画のハイライトの一つになっています。
この未来世界にエミリオ・エステベス演じるアレックスは、突然拉致されます。したがって、私たち観客は、アレックスとともにこの未来世界を体験していくことになります。
登場人物の個性もそれぞれ際立っていて、見どころになっています。反逆児的ですが、純真な心をもつアレックス。アレックスを事故で失っても想い続けるジュリー。アレックスを捕まえるという請け負った仕事を冷徹に遂行するバセンダック。アレックスの肉体を得るという欲に取りつかれたマッキャンドレス。この四者の駆け引きがドラマを生み出します。ジュリーやかつての仲間ブラッドらアレックス以外の登場人物が、アレックスがいない18年間をそれぞれ生きてきたというリアル感を醸し出しているところも注目点です。
『フリージャック』は、独特の近未来世界観と登場人物の個性に迫力のアクション・シーンが加わり、飽きさせません。『ブレードランナー』(1982年)や『トータル・リコール』(1990年)ほどメジャーな作品ではありませんが、『フリージャック』はそれらに負けない不思議な魅力をもつ作品といえるでしょう。