『愛と野望のナイル』は、魅力溢れる登場人物がドラマを彩っていきます。
リチャード・バートンは、豪快で自信に満ちたベテランの探検家として描かれます。旅や探検で訪れた現地の習俗に関心があり、現地の人々の中に入り込むことを好みます。未開社会の文化にも敬意をもって接し、その世界市民的な考え方は、帝国主義によって世界に覇権を伸ばそうとする当時のイギリスの白人優越の考え方とは無縁です。逆にイギリスの文明社会に対する冷徹な視点を示します。宗教に対しても「インドでは死者が蘇るのを目撃し、メッカでは聖なる石にキスし、孔子の書やコーランも原語で読む」と話すように宗教多元主義的な考え方をもっています。このように時代の先を行く哲学をもつ人物ですが、服には無頓着というのもユニークです。女性ながら当時は女人禁制の王立地理協会の報告会に出席しようとする、これまた時代の先を行くイザベルが、そんなバートンに惹かれるのも当然といえます。イザベルも固い信念をもつ人物で、バートンを支えます。一方、バートンとは対照的にジョン・スピークは冒頭、探検にはまだ慣れていないアマチュアとして登場します。純粋でナイーブな人柄ゆえ、オリファントに付け込まれてしまいます。
このように対照的なバートンとスピークが、過酷な遠征を通して友情を築き、互いに何度も命を救い合う関係になっていく過程が感動的です。そして、バートンとの遠征を通して、スピークもベテランの探検家として成長していきます。オリファントは自分の利益のために暗躍し、バートンとスピークの関係を壊していきます。また、バートンは、高名な探検家デビッド・リビングストンと出会います。この2人の会遇は、互いに探検で負った古傷を見せて自慢し合うという愉快な場面になっています。
バートン、スピークの二人を中心に、イザベル、オリファント、リビングストンらが絡み合い、これらの登場人物の思惑が交錯していくところが、『愛と野望のナイル』の見どころになっています。