遥か遠い昔、潮も風も雲も、まだ神の属性を失わず、人々の身近な存在として生きていた頃(パンフレットより)。北の浜の漁師の”さぶろうし”は、身分違いの恋人”ゆの”の婿入りの日、ゆのを連れて海に逃れます。漂流した二人は鬼の岬と呼ばれる謎の村に漂着します。
鬼の岬は、頭屋と呼ばれる長が支配する閉鎖的な村で、村人はさぶろうしとゆのに敵意と好奇の目を向けます。村人は、気絶した状態で発見されたさぶろうしとゆのを 再び海に投げ入れて、殺そうとしますが、それを制止したのは”くっくねの爺”と呼ばれる長老でした。さぶろうしとゆのは、くっくねの爺に保護されたあと、頭屋の屋敷で取り調べを受けます。外界から来た者を拒む頭屋から、さぶろうしとゆのに村に住まわせる前に、<試し>と呼ばれる試練が課されることになりました。最初の<試し>は、<お石とり>と呼ばれるものでした。<お石とり>は、断崖絶壁から激しく波打つ海に飛び込み、底の石を取ってくるという危険極まりないものでしたが、くっくねの爺の助けを得て、さぶろうしは見事成功させます。これによって、さぶろうしとゆのは、村人から新しい住人として迎えられたかに思われましたが、頭屋によって新たな<試し>として<喪屋籠り(もやごもり)>が課されます。<喪屋籠り>は、喪屋と呼ばれる村の死体安置所で、次の満月まで後ろ手に柱に縛られたまま過ごすという過酷なものでした。さぶろうしの<喪屋籠り>の間、ゆのは頭屋の屋敷で預かられることになります。<喪屋籠り>で、さぶろうしはヒルに苦しめられ、ゆのに会えないことから、肉体的にも精神的にも過酷な状態に追い込まれます。心配になって喪屋に向かったゆのは、村人に見つかりますが、くっくねの爺に救われます。くっくねの爺は、ゆのと喪屋に行きますが、ゆのに会いたい気持ちが高ぶったさぶろうしは、すでに喪屋を出ていました。村人に見つかったさぶろうしは、頭屋の前に突き出されます。頭屋は、三つ目の<試し>として、今すぐ一人で船出し、船いっぱいの魚を獲ってくるように命じます。ゆのはショックのあまり、我を失い、くっくねの爺が家で養生させることになりました。大嵐が到来していました。嵐で死んだかと思われていたさぶろうしが小船で帰ってきます。船には魚は一匹も獲れていませんでした。それを見て、裁きを下そうとする頭屋。しかし、さぶろうしの体に結んだ縄を引っぱると巨大なカジキが海から飛び上がりました。このようにしてさぶろうしは、すべての<試し>を克服したのでした。
海から帰ったさぶろうしが疲労のあまり四、五日眠っている間に、村は新しい脅威にさらされていました。ジャビと呼ばれる疫病が流行していたのです。ジャビは感染すると体に水ぶくれのようなものができ死に至る恐ろしい病で、短期間のうちに村人の半分が感染していました。村人はジャビの流行をよそ者のさぶろうしのせいにして、さぶろうしに石を投げます。村人に追われたさぶろうしは岬の小屋に逃げます。頭屋に襲われそうになったゆのも岬の小屋に逃げてきます。岬で親潮と黒潮がぶつかる潮目が、巨大な高波となっているのを目撃するさぶろうし、ゆの、そしてくっくねの爺。頭屋は疫病退治のため<鬼払いの火祭り>をすることを村人に告げます。四人の生贄も選ばれました。生贄が燃え上がる炎の中を通らされるのを拒む中、その場に現れたさぶろうしは、自ら進んで炎の中を通ります。驚きと感動の表情でさぶろうしを見つめる村人たち。このことでさぶろうしは、真に村人に歓迎されることになります。その様子をいまいましく眺める頭屋が服を脱ぐと、その体は、ジャビに侵されていました。そして、頭屋は炎の中に進んでいきますが、焚き火もろとも崩れ瀕死の重傷を負います。
死を前にした頭屋は、さぶろうし、ゆの、くっくねの爺らに昔、先祖たちがしたことを語り聞かせます。明かされる鬼の岬の忌まわしい起源。今、村は外界から来たさぶろうしによって生まれ変わろうとしていました。