大きな喪失感を抱えながらも、完成した人格として描かれる前田大五郎に対して、ケイン・コスギ演じる徳川頼宗は、負けん気は強いけれども、まだまだ未熟な若者として登場します。プリンス・オブ・オレンジ号に乗船し自分の’正式な’着物の扱いを船員に指示した時、若い船員が自分が持っているのは’正式な’モップだと言ってからかっているのを聞くと、その船員をすぐに斬りつけようとします。また、スペインで銃を船に積み込む際には、船員に積み込み方をあれこれ細かく指図します。また、前田に船から降ろされそうになったバスコ神父が打った芝居にだまされ、まんまと神父を信頼してしまう始末。海賊に襲われたときには、自分が捕まったため降伏した前田を臆病だと言います。そんな自分が世界の中心だと思っているような頼宗の視野が、世界を冒険することで広がっていきます。本来、君主であるにもかかわらず、奴隷まで経験することで自分の非力さを知ります。と同時に前田の信念の強さを理解します。すべて前田に頼りっきりだったのが、最後には銃の船への積み込みと船員の乗船を指揮するまでになります。海賊と最後まで戦わなかった前田を臆病と言っていましたが、最後には追ってきたエル・ザイダンに向けた連射砲の手を前田の指示に従い素直に止めるのです。このようにして、頼宗は日本を発ったときよりも一回りも二回りも成長し自立するのです。『兜/KABUTO』が描く冒険行は頼宗にとっては成長の物語であり、その意味からすると『兜/KABUTO』の真の主人公は頼宗かもしれません。