『スター・ウォーズ』に始まるSF映画ブームは、ファンタジー映画にも波及し、1980年代の映画界は、「SF映画の時代」と同時に「ファンタジー映画の時代」でもありました。高度に発達したSFX技術は、以前のファンタジー映画では再現できなかったイメージの映像化を 可能にしたのです。『オズ』もこの「ファンタジー映画の時代」という潮流の中で生まれた作品でした。『スター・ウォーズ』自体が剣と魔法のファンタジーを根底にした作品ですから、ファンタジー映画を活性化させる起爆剤になったのも当然といえるでしょう。
1981年にストップ・モーション・アニメ(ダイナメーションと呼ばれました)の権威レイ・ハリーハウゼンの集大成『タイタンの戦い』が登場。同じ年にジョージ・ルーカスのSFX工房ILMが特撮を担当した『ドラゴンスレイヤー』(日本未公開)が作られ、ストップ・モーション・アニメをさらにスムーズにしたゴー・モーションが導入されている点で注目されました。
続く1982年には、ヒロイック・ファンタジー『コナン・ザ・グレート』が作られ、アーノルド・シュワツェネッガーが注目されました。1984年には続編『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』が作られています。1982年には、ゲイリー・カーツ製作の『ダーク・クリスタル』も作られました。『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』に登場したヨーダのマペット技術を用いたユニークな作品で、ヨーダを操ったフランク・オズが、TV『セサミストリート』をともに手がけてきたジム・ヘンソンと共同で監督しています。また、1982年には『ミラクル・マスター/7つの大冒険』も発表されています。アクション映画の名作『ブリット』のピーター・イエーツ監督の『銀河伝説クルール』(1983年)もこのころの作品でした。
1984年には、アメリカ・西ドイツ合作の『ネバー・エンディング・ストーリー』が大ヒットします。SF映画で成功した監督たちもファンタジー映画を演出するようになります。『オーメン』(1976年)、『スーパーマン』(1978年)のリチャード・ドナーは、『レディホーク』を発表。『エイリアン』(1979年)、『ブレードランナー』(1982年)のリドリー・スコットは、『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)を発表しました。また、『スーパーマン』のプロデューサー、イリア・サルキンドは、『サンタクロース』(1985年)を製作しました。
ジョージ・ルーカスも『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』のあとは、ファンタジー映画に軸足を移していきます。『イウォーク・アドベンチャー』(1984年、DVDタイトル『スター・ウォーズ/イウォーク・アドベンチャー 勇気のキャラバン』)とその続編『エンドア/魔空の妖精』(1985年、DVDタイトル『スター・ウォーズ/イウォーク・アドベンチャー 決戦!エンドアの森』)を製作。この2作は、イウォークを主体にした『ジェダイの復讐』のスピンオフですが、中身は完全なファンタジー映画に仕上がっています。アメリカではテレビ放映されましたが、日本では劇場公開されました。続いてジョージ・ルーカスは、製作総指揮を担当した『ラビリンス/魔王の迷宮』(1986年)を発表。『ダーク・クリスタル』のジム・ヘンソン監督によるファンタジー映画で、『ダーク・クリスタル』同様マペット技術の粋が集められています。ジョージ・ルーカスは、同じく製作総指揮を担当した『ハワード・ザ・ダック/暗黒魔王の陰謀』(1986年)を経て、ファンタジー巨編『ウィロー』(1988年)を発表しました。
『オズ』は、まさに1980年代の「ファンタジー映画」の時代に生まれた一編です。1990年代は、ファンタジー映画のうねりは少し小さくなります。1990年代にSFXと呼ばれていた特撮が、CGを主軸にしたVFXに移行します。そして、2001年にVFX技術をふんだんに取り入れた『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ(2001年~2003年)と『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年~2011年)が開始され、映画界は再び「ファンタジー映画の時代」を迎えます。現在もこのトレンドの中にあるといえるでしょう。