たいへん明るい『オズの魔法使い』とは異なり、続編の『オズ』は不穏な雰囲気で始まります。竜巻でドロシーの家は壊されたため、新しい家は2つの抵当で建てている最中。オズの国から帰ってきたドロシーは、半年間寝ていないうえに、オズの国のことを話すあまり、家族からは一種の精神異常と思われています。ファンタジーを経験した者が現実世界では精神異常とみなされるあたりにリアリティがあります。ウーレイ博士は、電気ショックを使って記憶を消そうとする者として登場します。ウーレイ博士を補佐するのがウィルソン看護婦長です。そして、ウーレイ博士と同じニコル・ウィリアムソン演じるノーム王は、置物に替えられたスケアクロウを当てるゲームに挑戦しようとするドロシーに怖ければルビーの靴でカンザスに帰してやろうと言います。そして、オズの国の仲間のことは忘れるように促します。ウィルソン看護婦長と同じジーン・マーシュが、ノーム王のしもべであるモンビ王女として登場します。したがって、『オズ』は、ドロシーとファンタジーを否定しようとする者との戦いの物語だといえます。オズの国は、ドロシーの単なる空想、夢かもしれません。しかし、オズの国というファンタジー(空想、夢)の存在がドロシーの支えであり、ドロシーはファンタジーの体現者です。ウーレイ博士が電気ショックでドロシーの記憶を消そうとしたように、ノーム王もオズの国の記憶をもつものを消そうとします。ドロシーとウーレイ博士=ノーム王は、ファンタジーをめぐって対立し、戦うのです。
また、『オズ』は、ドロシーがカンザスの現実世界で、自分がもつファンタジーの世界を 心にしまって生きていくようになるまでを描く成長の物語でもあります。カンザスに帰ってきたドロシーは、エムおばさんに対して、かつてのようにオズの国の話をして理解を求めようとすることはありません。オズマ姫といつでも交信できるようになり、ファンタジーの世界を自分の一部としながら、現実世界で根を下ろして生きていくことを予感させて『オズ』は終わります。『オズ』が描くオズの国への再訪は、ドロシーにとって、ファンタジーと現実世界との折り合いをつけるために必要な行程だったといえるでしょう。