『プライベート・ライアン』(1998年)や『ダンケルク』(2017年)、『1917 命をかけた伝令』(2019年)など、近年の戦争映画には、観客に戦場を体感させる、というアプローチで作られた作品が多くありますが、『バット★21』はそれらの作品の先駆けともいえる一編です。観客はハンブルトンと共にベトナムの戦場を体験し、敵地に残された孤独を味わうことになります。夜、休息をとっていてもすぐそばを敵兵が歩いているという恐怖、敵の目をかいくぐりながら移動しなければならない状況からくる焦燥感を観客は体感し、最後までハンブルトンの脱出行から目が離せなくなります。
ハンブルトンは、ミサイル兵器専門の電子兵器将校で、通常は飛行機に乗り、9000メートル上空から敵の情報を収集する役目を負っていました。それが、偵察機が撃墜されたことで戦場に放り出され、初めて戦場の現実を見ることになります。ハンブルトンが目にし、体験するのは味方の攻撃によって負傷した敵兵が仲間の手で殺される様や、自分と民間人の殺し合い、自分を救出に来たアメリカ兵が殺される光景など、まさに戦争の業というべきもの。ハンブルトンが初めて殺した人間は民間人だったというのも言葉にできない残酷さがあります。一人の命を救うために、多くの命が犠牲になるという矛盾が描かれるわけですが、それは『プライベート・ライアン』に通じるテーマでもあります。また、ハンブルトンは名もなき一人のベトナム人少年に、命を救われることにもなります。命を奪う行為(戦争)の中で行われる命を救う行為(救出)を描くことで、『バット★21』は、様々な戦争の業を浮かび上がらせ、私たちに静かに訴えかけてくるのです。