バット★21(1988年アメリカ 日本公開: 1989年)BAT-21

2. ベトナム戦争映画の潮流!

 ベトナム戦争を扱った映画は、1970年代末に3つの名作が登場しました。『帰郷』(1978年)は、帰還兵をテーマに戦争の非道さを描いたもの。『ディア・ハンター』(1978年)は、田舎町の若者たちの人生がベトナム戦争によって歪められていく様を描き、その年のアカデミー賞の作品賞を受賞しました。『地獄の黙示録』(1979年)は、ジャングルの奥地に王国を築いた軍人の暗殺命令を受けた兵士の目を通して、ベトナム戦争の狂気を描きました。
 1980年代後半になると戦場のリアリティに迫った作品が登場します。『プラトーン』(1986年)は、オリバー・ストーン監督が自身の従軍体験をもとに、残酷描写も投入して描いた力作。観客にベトナムの戦場にいるかのような錯覚を起こさせる、圧倒的なリアリティをもった作品に仕上がっています。(このアプローチをさらに徹底的に突きつめたのが第2次世界大戦を題材にした『プライベート・ライアン』(1998年)といえます。)『プラトーン』は、戦場の描写を刷新し、優れたドラマと相まってその年のアカデミー賞の作品賞を受賞しました。同時期に公開された『ハンバーガー・ヒル』(1987年)もリアルな戦場描写が見どころでした。
『プラトーン』の登場は他の映画人を刺激し、巨匠たちがベトナム戦争映画を発表するようになります。バリー・レビンソン監督は、『グッドモーニング、ベトナム』(1987年)を製作。ロビン・ウィリアムズ演じるDJの目を通してベトナム戦争を描きました。スタンリー・キューブリック監督の久々の作品もベトナム戦争ものになりました。その『フルメタル・ジャケット』(1987年)では、海兵隊訓練所で若者が殺人マシーンに変えられていく様と、ベトナムの悪夢のような市街戦が非情なタッチで描かれています。ブライアン・デ・パルマ監督は、『カジュアリティーズ』(1989年)を製作し、戦場での兵士による凄惨な犯罪を描きました。『プラトーン』のオリバー・ストーン監督は、続いて『7月4日に生まれて』(1989年)を発表し、ベトナム戦争を体験した反戦運動家ロン・コーヴィックの人生を描きます。さらに、ベトナム戦争で出会ったアメリカ兵と結婚したベトナム人女性の人生のドラマ『天と地』(1993年)を製作、自身の「ベトナム戦争三部作」を完成させます。
 これらの戦争ドラマの一方で、ベトナム戦争を題材にしたアクション映画の代表が『ランボー』(1982年)と『ランボー/怒りの脱出』(1985年)です。『ランボー/怒りの脱出』では、ベトナムの捕虜収容所に捕らわれているアメリカ兵を救出する様が描かれました。同じテーマの作品に『地獄の7人』(1983年)、『地獄のヒーロー』シリーズ(1984年~1988年)があります。また、アメリカ軍の少数の精鋭部隊とベトナムの大軍が戦いを繰り広げる『スクワッド』(1988年)や、ベトナム戦争を題材にした航空アクション『イントルーダー/怒りの翼』(1990年)も作られました。
 21世紀に入っても、アメリカ軍とベトナム軍の戦いを大局的に描いた大作『ワンス・アンド・フォーエバー』(2002年)や捕虜となったアメリカ軍パイロットの実話を描いた『戦場からの脱出』(2006年)などが作られています。
 ベトナム戦争映画は、『プラトーン』などのようにむごたらしい戦場の現実を描いたドラマと、『ランボー/怒りの脱出』などのようにアクションに徹した娯楽作に大きく分けられます。『バット★21』は、救出作戦を淡々とドキュメンタリータッチで描いた点で、そのいずれにも属さない異色のベトナム戦争映画に仕上がっています。

『バット★21』(3)ストーリー

けんいち

管理人のけんいちです。 関西在住の映画の思い出ライター、映画グッズコレクターです。