戦場に取り残された恐怖から、すぐ救出するよう要請するハンブルトンは、弱さも見せ、人間味のあるキャラクターとして描かれます。そんなハンブルトンを、時には叱咤しながらも、励まし続けるクラークも魅力あるキャラクターです。救出を要請するだけだったハンブルトンは、ゴルフコースを使った独自の脱出プランを立てるやいなや、俄然主体的になり、ドラマが加速していきます。ここからハンブルトンとクラークは2人で活路を見いだしていくことになります。2人をつなぐのは無線。お互い顔も知りませんが、互いのことを話し、2人は友情と信頼を築いていきます。『バット★21』は、日本では、1989年の春休みの興行として3月に公開されましたが、その直前の2月に、正月第2弾として公開されたのが、『ダイ・ハード』(1988年)でした。ブルース・ウィリス演じるジョン・マクレーン刑事は、ナカトミ・ビルで孤立無援の中、外にいるレジナルド・ヴェルジョンソン演じるアル・パウエル巡査と無線で交信し、励まされながら、互いの信頼関係を築いていきます。この描写が『ダイ・ハード』の重要な要素の一つになっていました。『バット★21』を観たとき、私は、これは戦場の『ダイ・ハード』だと感じました。無線の交信によって観客は、危機の中にいるハンブルトンの時には処理しきれない感情、クラークの冷静さと優しさ、そしてハンブルトンとクラークのそれまでの人生を知ります。したがって、無線の交信がハンブルトンとクラークの人物描写に奥行きを与え、ストーリーの進行についての観客の理解を、容易なものにしています。それまで<バット-21>、<バード・ドッグ>というコードネームで呼ぶしかなかった2人は、ラストで救出されたあと、互いの本名を名乗り合って、笑い合います。この場面で私たちが安堵と共に爽やかな感動に包まれるのは、2人とも救出作戦に従事する兵士(救出する者、救出される者という立場の違いはありますが)という記号から、個人という人格を回復した場面といえるからでしょう。