『逃亡者』は、コーネル家の屋敷という密室を舞台にドラマが進みます。しかし、密室を描きながら、要所要所で屋外の場面、それも大自然の描写が入り、密室と大自然という強烈なコントラストが『逃亡者』の不思議な魅力を作り出しています。
密室、つまりコーネル家の屋敷を描くときは、狭い一室でマイケル、アルバートら犯罪者とティムやノラら家族が対峙するという場面が続き、緊張感とともに窮屈さを感じさせる演出になっています。それとは対照的に、屋外を描くときは大自然をダイナミックに描き、観客に解放感を与えます。しかも大自然を背景に追跡劇や銃撃戦が描かれ、テンポも加速します。マイケルのもとへ急ぐナンシーがFBIに尾行される場面は、ハイウェイを猛スピードで走るナンシーの車とそれを追うFBIの車とさらに上空から追尾するチャンドラーの飛行機を描き、テンポが急加速するとともに立体的な追跡劇になっていて迫力があります。また、渓谷を流れる川をアルバートが逃げる場面では、悠久の自然が、一瞬映し出される鹿ののんびりした姿で表現されます。それによって、破滅に向かうアルバートの悲哀が一層強調されます。そして、逃走に諦めたアルバートは口笛を吹いたのち、スナイパーに撃ち殺されます。アルバートの口笛は、死ぬ前に悠久の自然に一瞬思いをはせるかのような行為です。この短いシーンを挟むことで、私たち観客に滅びゆくアルバートの姿を強烈に印象づけることに成功しています。
『逃亡者』は、窮屈な密室のドラマに大自然を背景にした追跡劇、銃撃戦などを次々に挿入することで、スピーディな場面展開が繰り広げられます。密室と大自然の強烈な対比が映画のテンポに緩急をつけるとともに、視覚的なおもしろさを与え、最後まで飽きることなく一気に観ることができる作品に仕上がっています。