アパッチ(1990年アメリカ 日本公開: 1990年)Fire Birds(別タイトル Wings of the Apache)

5. 見どころ①!~シンプルなストーリーに織り込まれた多彩なドラマ!~

『アパッチ』は、アパッチ部隊と麻薬カルテルの死闘というシンプルなストーリーの中に多彩なドラマを織り込むことで最後まで飽きさせず、一気に見せきります。まず、ジェイクの成長のドラマです。自分をスーパー・パイロットと呼ぶ自信家ですが、利き目の問題から一度は自信を失います。恋人ビリーのアドバイスと、メンターであるブラッドの助けでそれを克服し、自信を回復すると同時に、ブラッドに自分が生意気だったと話し、謙虚さを学ぶまでに成長します。次に、師弟のドラマです。自信過剰なジェイクを導くのは、ブラッド。ジェイクにさらに輪をかけたような自信家でブレることがない、常に安定したベテラン・パイロットです。ジェイクをグイグイ引っ張りながら、利き目の問題を抱えたジェイクに過去の自分とそっくりな姿を重ね、包容力をもってジェイクの成長に一役買います。おもしろいのは、ブラッドも教官というポジションに満足していない点。まだまだ後進に道を譲りたくないという気持ちに満ち溢れています。ジェイクの出現がブラッドのそんな気持ちにさらに火をつけたといえるでしょう。ブラッドも知らず知らずのうちにジェイクから刺激を受けていたのです。したがって、ジェイクとブラッドという師弟が影響し合いながら、固い信頼関係で結ばれていくドラマであり、それだからこそ最後の師弟の共闘の場面は見ごたえがあります。そして、恋愛のドラマです。一度は別れたジェイクとビリーが、再び愛し合うようになります。ジェイクは、女性は家で家事と育児をするべきという古い価値観をもった青年。自立した女性であるビリーとは、衝突しました。それが、再会し、ビリーが偵察ヘリ・パイロットとして活躍している姿に触れて、ジェイクはビリーの生き方を受け入れるようになります。最後には、ともに戦場で戦い、助け合うまでになります。ビリーに注目すると、女性の自立のドラマでもあります。「女にも平等に危険を下さい。」という女性の観客に訴求する宣伝文句がチラシにも使われましたが、戦場に赴くビリーは、危険を顧みず信念に生きる女性を体現しています。最後にかたき討ちのドラマです。ジェイクにとって、ストーラーは、仲間の命を奪われた仇でした。ラストのドッグファイトはかたき討ちを果たすための執念の戦いです。
 シンプルなストーリーながら、これだけの要素を織り込み、86分という上映時間にまとめ上げたデビッド・グリーン監督の手腕は見事なものです。夕日をバックに飛ぶアパッチの編隊が映し出されるオープニングから、月に向かって飛ぶジェイクとビリーの乗った偵察ヘリが映し出されるエンド・タイトル・クレジットまで、映画は一切の無駄を省き、疾走します。近年はやたら上映時間が長い娯楽映画が多くなり、冗長な感がありますが、『アパッチ』はそれらとは対照的に短い上映時間で一気に見せきることに成功しています。

『アパッチ』(1990年)(6)見どころ②!~3人のキャストの魅力!~

けんいち

管理人のけんいちです。 関西在住の映画の思い出ライター、映画グッズコレクターです。