『戦場にかける橋2/クワイ河からの生還』の後、しばらく第2次世界大戦を題材にした戦争映画の大作は、スクリーンから姿を消します。確かに『メンフィス・ベル』(1990年)がありましたし、日本では、終戦から50年を迎えた1995年に『ひめゆりの塔』(1995年)、『きけ、わだつみの声 Last Friends』(1995年)などが作られました。しかし、ハリウッド黄金期の娯楽派戦争映画を想起させる作品はこの『戦場にかける橋2/クワイ河からの生還』が最後の作品のように思います。
1980年代から1990年代のハリウッドは、ベトナム戦争を題材にした作品が増えました。オリバー・ストーンの『プラトーン』(1986年)・『7月4日に生まれて』(1989年)・『天と地』(1993年)の<ベトナム戦争三部作>、ジョン・アーヴィンの『ハンバーガー・ヒル』(1987年)、スタンリー・キューブリックの『フルメタル・ジャケット』(1987年)、ブライアン・デ・パルマの『カジュアリティーズ』(1989年)など、ハリウッドの巨匠・名匠たちがベトナム戦争への内省を深め、その悲惨さを残酷描写も入れてダイレクトに描くようになりました。
その後、第2次世界大戦を題材にした作品は、スティーブン・スピルバーグの『プライベート・ライアン』(1998年)で大きく様変わりします。『プライベート・ライアン』は、先のベトナム戦争映画で導入され始めた残酷描写をさらに追求し、戦場をリアリティたっぷりに描くことに成功。観客を悲惨な戦場にいるかのように錯覚させるアプローチで戦争に迫りました。(私は、スピルバーグが『プライベート・ライアン』でとったこのアプローチの源流は、黒澤明の『乱』(1985年)にあるとみています。)
『プライベート・ライアン』の後、このアプローチで戦場を描く多くのフォロワーが登場しました。テレンス・マリックの『シン・レッド・ライン』(1998年)、ジャン=ジャック・アノーの『スターリングラード』(2001年)、ジョン・ウーの『ウィンドトーカーズ』(2002年)、クリント・イーストウッドの『父親たちの星条旗』(2006年)・『硫黄島からの手紙』(2006年)の<硫黄島二部作>などです。同時期の日本映画『男たちの大和/YAMATO』(2005年)もこのアプローチの影響が見られます。そして、このアプローチは、メル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』(2016年)で頂点を迎えます。
このアプローチが主流の中にあって、ジョージ・クルーニー監督・主演の『ミケランジェロ・プロジェクト』(2014年)は、作風が異なっていました。口笛によるテーマ曲も印象的で、『戦場にかける橋2/クワイ河からの生還』と同じようなハリウッド黄金期の娯楽派戦争映画を思い出させる作品になっていました。