戦国時代の武将・上杉謙信を主人公に、ライバル・武田信玄との川中島の戦いを描いた『天と地と』は、当時久々の戦国合戦映画でした。
時代劇は、大きく<侍もの>と<鎧もの>に分けられます。『七人の侍』(1954年)、『用心棒』(1961年)、『十三人の刺客』(オリジナル版=1963年、リメイク版=2010年)のほか、1950年代から1960年代に量産された東映時代劇の多くが、侍を主人公にチャンバラを見せ場とする<侍もの>です。一方、甲冑で身を固めた戦国武将の合戦を見せ場とする時代劇が<鎧もの>です。<鎧もの>は、大勢のエキストラを必要とするところから大作になるため、<侍もの>に比べて本数が少なく、1970年代、1980年代も数えるほどしか作られませんでした。戦国武将は、映画化よりもテレビのNHK大河ドラマやスペシャルドラマで扱われることが多く、その傾向が1980年代以降顕著になりました。
映画では、1960年代末に三船敏郎が武田信玄の軍師・山本勘助を演じた稲垣浩監督の『風林火山』(1969年)が作られた後、1970年代末に松方弘樹が真田幸村を演じた中島貞夫監督の『真田幸村の謀略』(1979年)が発表されました。『真田幸村の謀略』は、ちょっとSFチックなところもある異色の作品に仕上がっていました。1980年代に入ると、仲代達矢が武田信玄とその影武者を演じた黒澤明監督の『影武者』(1980年)が登場、大ヒットします。続いて黒澤明監督は同じ仲代達矢主演でシェークスピアの『リア王』を翻案、戦国時代に置き換え、架空の武将を主人公にした『乱』(1985年)を自身のライフワークとして発表しました。『乱』から5年の空白をあけて作られた久々の戦国合戦映画が『天と地と』です。
私は、大学生のころ、『天と地と』を映画館で鑑賞し、スクリーンに再現された上杉謙信の人生ドラマと川中島の戦いを大いに楽しみました。川中島の戦いのシーンには、そのスケールの大きさと迫力に圧倒されたのを覚えています。