『天と地と』は、「戦国ヒロイック・ファンタジー」という言葉が宣伝に用いられました。この言葉を聞いたとき、私がイメージしたのは『コナン・ザ・グレート』(1982年)でした。『コナン・ザ・グレート』は、ヒロイック・ファンタジー小説の映画化で、架空の古代世界を舞台に、帝王となるコナンの若き日の成長譚を描いた作品です。
『天と地と』を観たとき、そのイメージ通りだったことを覚えています。『天と地と』は、上杉謙信の恋人との出会いと戦場で非情に徹しきれない若き日から始まります。そして、謙信が諸国流浪の旅とそこでの宿敵との出会いを経て、清濁併せ持つ武将に成長、メンターと闘い、恋人を喪失し、そして宿敵と大合戦を繰り広げるまでを描く見事な成長譚になっています。
角川春樹監督は、『天と地と』を作るにあたって、頭にあったのは、『スター・ウォーズ』(1977年)や『ダイ・ハード』(1988年)のようなアクションもののおもしろさを時代劇で見せたいという思いだったと話していました。そして、撮影にあたって日本の時代劇映画を参考にすることは全然しなかったことと、むしろ『スパルタカス』(1969年)などの史劇スペクタクルで陣形が移動していく30秒くらいのシーンにインスパイアされることのほうが多かったことを話しています(「ニュータイプ100%コレクション・エクストラ 天と地と」角川書店、1990年)。角川春樹監督は、ハリウッドを意識し、世界に通用するアクション映画を志向していました。ですから、世界中の人が観て理解し、共感できるキャラクター造形になったこともうなずけます。『天と地と』の上杉謙信は、スペースオペラやファンタジー映画のヒーローを想起させるヒーローになっていて、『天と地と』は壮大な英雄伝説になっているのです。