『レッド・オクトーバーを追え!』が成功した大きな要因の一つは、豪華で役柄に応じたキャスティングの見事さでしょう。ジャック・ライアンを演じたアレック・ボールドウィンは、当時『ビートルジュース』(1988年)で注目されだしたころで、まだ新人。第2のトム・クルーズという宣伝文句がついていました。CIAの分析官という一種の学者ですが、実は海兵隊出身という役柄をいきいきと演じ、純粋さとタフさの両面を見せることに成功しています。ジャック・ライアンのメンターであるジェームズ・グリーアCIA副長官をジェームズ・アール・ジョーンズ。『コナン・ザ・グレート』(1982年)、『フィールド・オブ・ドリームズ』(1989年)などのベテラン俳優ですが、なんといっても『スター・ウォーズ』シリーズ(1977年~2016年)のダース・ベイダーの声で有名。『レッド・オクトーバーを追え!』の真の主人公で潜水艦レッド・オクトーバー艦長マルコ・ラミウスにショーン・コネリー。この映画でも渋い格好よさを見せてくれます。レッド・オクトーバーの副長のヴァシリー・ボロディンにのちに『ジュラシック・パーク』(1993年)で注目を浴びることになるサム・ニール。ラミウスの忠実な部下でよき話し相手ともいうべき役柄を演じています。アメリカ海軍の潜水艦ダラスのバート・マンキューソ艦長に『ライトスタッフ』(1983年)のスコット・グレン。まさに軍人、海の男という雰囲気で演じています。国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェフリー・ペルトに『レイズ・ザ・タイタニック』(1980年)のリチャード・ジョーダン。人を見る目を持ち、政治家らしい駆け引きにもたけている役柄をスマートに演じています。ほかにジェフリー・ジョーンズ、コートニー・B・バーンズ、フレッド・トンプソン、ステラン・スカルスガルドなどが出演。どの俳優も適材適所というべきキャスティングになっています。
『レッド・オクトーバーを追え!』が成功したもう一つの大きな要因は、監督にジョン・マクティアナンを起用したところでしょう。ジョン・マクティアナンは、それまでの作品『プレデター』(1987年)、『ダイ・ハード』(1988年)でも、姿を見せない存在との戦いを描いてきたからです。『プレデター』におけるプレデターは、終盤まで遮蔽装置を使って、姿を隠しています。主人公を演じるアーノールド・シュワルツェネッガーがいかにして姿の見えない敵と戦うかが見所でした。『ダイ・ハード』は、『プレデター』とは反対に、ブルース・ウィリス演じる主人公が姿を隠しながら、高層ビルを占拠した犯罪者たちと戦います。犯罪者たちは、姿が見えないブルース・ウィリスに翻弄されるわけです。『レッド・オクトーバーを追え!』は、海中を潜航し、姿を見せないソ連の潜水艦にジャック・ライアンらアメリカ側とソ連側が、どういう対処をしていくかがストーリーです。『プレデター』、『ダイ・ハード』で姿の見えない存在との戦いを描いてきたジョン・マクティアナン監督の手腕が『レッド・オクトーバーを追え!』でも発揮されました。『プレデター』はジャングル、『ダイ・ハード』は高層ビルという限定された空間が舞台でしたが、『レッド・オクトーバーを追え!』は、舞台は一気に世界規模に拡大。しかし、『プレデター』、『ダイ・ハード』のおもしろさそのままに一気呵成に見せきることに成功しました。
私は、『レッド・オクトーバーを追え!』を京都の烏丸四条の京都産業会館8Fのシルクホールで行われた試写会で鑑賞しました。この頃、KBS京都ラジオで映画番組を放送していて、毎週聞いていました。その番組で試写会の案内があり、応募したところ当選。前前年の『3人のゴースト』(1988年)、前年の『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)続き、私にとって三度目の試写会でした。期待に胸を膨らませて会場にいったのを覚えています。そして、期待を超える完成度の高さに圧倒されて帰ってきました。