パニッシャーの正体を知るジェイクがパニッシャーを捜索する物語が、パニッシャーの活躍と並行して描かれます。したがって、私たち観客はジェイクを通して、パニッシャーの実像に迫ることになります。
ジェイクに注目すると、この映画のもう一つの大きなテーマが、「喪失」であることがわかります。映画は、ジェイクの喪失の物語でもあるのです。ジェイクは、かつて刑事という殺伐とした仕事のストレスで酒浸りになり、落ちぶれていました。そこに現れたのがパニッシャーに変貌する前の刑事フランク・キャッスルでした。フランクは経験豊かなジェイクに学びたいと言い、この出会いでジェイクは立ち直り、刑事に戻ることができたのでした。ジェイクとフランクは、固い友情と信頼で結ばれたパートナーになり、ジェイクにとって、フランクの家族は、自分の家族同然の関係になりました。ジェイクは、フランクに一度救われた恩があるのです。フランクとの友情と信頼を今も信じ続けるジェイクは、今度はフランクを捜し出し、更生することで、フランクを救おうとするのです。しかし、現実は異なりました。フランクはパニッシャーに完全に変貌してしまっていて、かつての親友ジェイクの言うことに耳を貸すことはありません。悪人を成敗することに憑りつかれ、その無間地獄の中にいて、神に救いを求めるパニッシャー。そんなパニッシャーにとって、ジェイクは、無間地獄から救い出そうとしてくれているわけで、その意味で神の使いといえます。しかし、パニッシャーは、神の使いさえ拒絶するのです。このようにして、かつて家族を失ったフランクが地下に潜って姿を消したときに続き、再度ジェイクはフランクを喪失します。
ジェイクとパニッシャーの留置場での再会のシーンは、この映画の中で最も重要なシーンといえます。この場面で、2人が<法を守ろうとする男>と<法も何もかも捨てた男>という全く相容れない関係になったことが明確になります。それでもまだフランクを家族だと思っているジェイクは、「なぜ、助けを求めない?俺をのけ者にするな!( “Let me in!”=俺も関わらせろ!)」と半ば頼むように叫びます。ここは、ジェイクを演じるルイス・ゴセット・ジュニアの熱演によって、感動的なシーンになっています。しかし、ジェイクを受け入れないパニッシャー。親友さえ捨てなければならないパニッシャーの姿から、家族を失った悲劇の大きさが伝わってきます。
ラストで描かれるパニッシャーのフランコとの共闘。これは、フランコに拉致されたジェイクのためのパニッシャーの行為。したがって、ジェイクは、今回もフランクを喪失しますが、刑事として立ち直ったときに続き、今回もフランクによって救われるわけです。そこにジェイクは、フランクへのかすかな希望を見出すといえます。これからもパニッシャーは犯罪者を殺し続け、ジェイクはパニッシャーを捜し続けるのでしょう。ラストシーンのビルの屋上に立つジェイクの「フランク!」という叫びは、それを予感させます。
このように、ジェイクの喪失の物語が語られるわけですが、ジェイクはサムという新しい相棒を得ます。それがジェイクにとって唯一の救いになります。そこが、救いのないパニッシャーと異なる点として印象に残ります。