SF映画では、宇宙船やメカのデザインが魅力的かどうかが、重要な要素の一つです。
『ブラックホール』の宇宙船は、それまでに公開された『未知との遭遇』とも、『スター・ウォーズ』とも、『スター・トレック』とも、『エイリアン』とも、異なる独創的なデザインで引きつけられます。
『未知との遭遇』のきらびやかなマザーシップ、『スター・ウォーズ』のメカが露出し、使い古された宇宙船、『スター・トレック』の銀色に輝くエンタープライズ号、『エイリアン』の宇宙を進む工場ともいうべきノストロモ号と、次々と革新的なデザインがSF映画に登場し、観客を驚かせましたが、『ブラックホール』もそれらに匹敵する新しいデザインが溢れています。
エッフェル塔を横向けにしたような宇宙船シグナス号のデザインは斬新なもので、全体が露出する鉄骨でできているところは、スチームパンク的です。巨大な宇宙船ですが、露出した鉄骨からは、脆弱さもうかがえ、印象に残ります。日本版ポスターやチラシの『ブラックホール』のロゴも、シグナス号の鉄骨を想起させるようにデザインされています。
『ブラックホール』は、シグナス号の船内で物語が進行します。このあたり、ノストロモ号の船内で物語が進行する『エイリアン』と似ています。『エイリアン』では、恐怖をもたらすものは、謎の宇宙生物エイリアンでした。これに対し、『ブラックホール』では、怖いのはエイリアンではなくラインハート博士という一人の人間の狂気です。リアリティがあるストーリー展開で、ドラマ性を高めています。狂気という人間のもつ負の側面を物語の主軸にしているところも、『ブラックホール』の独創性の一つです。
一方、NASAの探査船パロミノ号は、マーキュリー計画やアポロ計画で発達してきたロケットに似ています。現在の宇宙計画の延長線上にあるデザインで、親近感がわきます。『ブラックホール』では、私たち観客は、ホランド船長らパロミノ号のクルーの視点から、物語をたどるようにことになります。パロミノ号に感じる親近感は、私たちがパロミノ号のクルーの視点に立つという効果を高める要素になっています。